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「貴島スペック」ついに登場!

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写真/神村 聖
オートエクゼと貴島孝雄さんがタッグを組んだサスペンション

ただ車高が下がればいいとか、闇雲に硬い足がいいという人は、オートエクゼのサスペンションを選ぶ必要はない。乗り心地とスポーツフィールを両立した、バランスのとれたサスペンション、それがオートエクゼの『ストリートスポーツサス・キット』なのだ。KIJIMA SPEC.は、自動車工学に基づいた、しっかり裏付けのあるサスペンションとして誕生した。

B360トラック

貴島孝雄さんといえば、ミスターロードスターとしてその名を知られる人物。2代目のNB型以降の開発主査を担当され、お馴染の方々も多いだろう。
だが、貴島さんの活躍はそれだけではない。当時、NB型ロードスターの開発主査を務める一方で、FD型RX-7の開発主査も担当していた。すなわち、マツダのスポーツカーのすべてを取り仕切っていたことになる。
なぜこのような重要なポジションをたったひとりで担当できたのか?それは貴島さんがマツダの根幹となるスポーツカーの味作りを、ずっと昔から行なってきたからだ。 代表的なところでいえば、初代NA型ロードスターのシャシー開発担当は貴島さんだった。ダブルウイッシュボーンサスペンションの採用を推し進めたこと。当時はGMのコルベットやBMWのZ1にしか採用されていなかった、パワープラントフレームの採用に踏み切ったこと。
FC型RX-7で登場したリアのトーコントロール機構を提案したのも貴島さんだった。ちなみにこのトーコントロール付きのリアサスペンション開発によって、財団法人自動車技術会から技術開発賞を受賞している。
マツダのスポーツカーにおける走りの基本中の基本を作り上げた貴島さんは、その一方でル・マン24時間耐久レースにおいて優勝を果たした787Bの車体、シャシー系の設計開発にも携わっている。市販車の世界だけでなく、レース界においても結果を出した、類稀なる才能の持ち主である。

貴島ゼミナールの内容を忠実に再現したモデルだ
B360トラックAutoExe SE-04

オートエクゼの成り立ちは、マツダスピードOBなので、貴島さんとは以前より交流があった。オートエクゼは、設立当初(1997年)より一貫して『ストリートベストチューン(感性チューニング)』を提唱していて、貴島さんとベクトルが同一だったため、スーパーバイザーに迎え技術的背景を強化することにしたのだ。
「このお話を頂いた時は非常に嬉しかったですね。実はアフターマーケットのパーツには、失礼ながら理論を踏まえて開発されたと思えるものが少ないと思うんですよ。乗ると首を傾げたくなるものまで存在する。
もちろんオートエクゼのことは、以前から良く知っていて、理想的なパーツを出しているチューニングパーツメーカーであることは知っていました。
僕が入ることで純正では表現しきれなかったことを、よりスポーツ指向が強いユーザーに向けてアプローチしていこうという気持ちで一杯になりました」と、貴島さん。
こうして2011年より「オートエクゼ×貴島孝雄」の強力タッグが完成する。だが、面白いのはすぐに商品開発に着手せず、まずは貴島理論を浸透させようと、ホームページ上に『貴島ゼミナール』を開講したことだ。
『貴島ゼミナール』を開講したのは、自動車について、チューニングについて、自動車工学的にキチンと書いてある書物が少なく、クルマのチューニングについての理解を深め、ユーザーとコミュニケーションをとりたかったから。
その内容はチト難しいところもあるが、作り手からユーザーまで幅広く、貴島理論を少しでも理解してもらおうとする熱意が感じられる。すでに10回に渡る講義が行なわれ、もはや本にしたほうが良いのでは? と思えるほどの内容が詰まっている。
『ストリートスポーツサス・キット(貴島スペック)』は、貴島ゼミナールの延長上にあると考えられるのだ。「回数を重ねてきたゼミナールの内容を、実際の製品にしたらどうか?これが今回の貴島スペックサスペンションなんです。第一弾としてはNB・NCロードスターとRX-8用の3車種に対して発売を開始しました。まずは乗ってみてくださいよ」

 

  「どっちも貴島セッティングなのにそれぞれ“乗り味”が違っている」

際だったしなやかさを真っ先に感じる

こうして貴島さんから託されたNCロードスターは、一見するとわずかに車高を下げられたくらいにしか見えない。隣にあるノーマルと比べてみても、エアロパーツの装着などを差し引けば車高のダウン量が少ない。

B360トラックAutoExe NC-04

走ってみると真っ先に感じることは、しなやかさが際立っているということだった。突き上げ感は一切なく、ノーマルと比べれば、まるで地を這うように高いスピードで、コーナーをブレずに駆け抜けて行く。
やや腰高に感じ、路面が悪いとリアがムズムズと動き出しそうな感覚のあるノーマルとは、明らかに違う。箱根での試乗当日は冬の到来を予感するような落ち葉が路面のあちらこちらに散らばっており、さらにそれが夜露で濡れてとても滑りやすい環境だったが、躊躇せず走れる安定感を手にしたことを何よりも感心した。
純正タイヤ&ホイール(今回取材は、サスペンションの性能を正確に確認するために、わざわざ純正に履き替えて行なった)を装着しながらその世界を達成したことは、貴島スペックサスペンションの威力といっていいだろう。だが、それだけではない。安定方向に振られたとはいえ、ドライバーに自由度をきちんと与えているということだ。スロットルオフやブレーキングによって向きを変えることを可能にし、立ち上がり方向ではきちんとトラクションを稼ぐことを実現。
いずれの状況も4輪が路面から離れるようなことはなく、不安感を抱かないところがイイ。前後バランス50:50の素性の良いクルマを余すことなくしゃぶりつくせる感覚は、ノーマル以上の世界観が備わっている。
これはきちんとストロークを確保し、ドライバーが動かすことのできる領域をきちんと残してしているからに他ならない。車高をむやみやたらに下げることなく完成させたことは、きっとそんな狙いがあるのだろう。貴島ゼミナールを読まなくても、乗るだけできちんと伝わって来るその仕上がりは、ノーマルの時点でこんなグレードが出来上がっていれば最高なのに、と思ってしまうほど。

ノーマルではできなかった3つの理由

貴島スペックサスペンションとは、タイムや速さを追いかけたチューニングカー的仕上がりではなく、量産車のプレミアムグレードで存在していそうな世界観なのだ。走り終えてその感想を貴島さんに伝えると、なぜそんな仕上がりにすることができたかを教えてくれた。
「ノーマル車の場合、制約があって車高を下げられない理由がいくつか存在します。それは、雪道でチェーンが巻けなければいけないとか、生産ライン上の問題であるとか、輸送上の問題であったりする。
しかし、すでにお客様が手にしている市販車の場合、よりスポーツ性を求めようというのであれば、ある程度車高のダウンが可能になります。
今回発売した『ストリートスポーツサス・キット(貴島スペック)』は、ストリートをメインターゲットとしていますから、もちろんある程度のクリアランスは確保します。日本国内のどんなシーンを走っても問題がない15㎜ダウンとしました。狙いは重心高を下げて運動性を高めようというものです」
フェンダーとタイヤのクリアランスだけを考えれば、ロードスターの場合最大で25㎜のダウンが可能だそうだ。サーキットのようなフラットな路面だけを狙うのであれば、25㎜ダウンにしたほうが結果的に良好になると貴島さんは語る。だが、あらゆる路面を考えるストリートカーの場合は、しっかりとしたストロークも必要。それを狙ったからこそ15㎜ダウンに落ち着き、今回のような箱根のうねる路面でも、快適にこなしたのだ。

 

 「自動車工学の理論に基づいているからこそ
             本物の調律“チューニング”を味わえる」

正しいデータで開発した貴島理論が凝縮したサス
B360トラック貴島教授の講義も聞いた!

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ただし、車高をダウンするからにはスプリングレートを再検討する必要が出てくる。路面からの入力をノーマルより短いストロークで受け止める必要があるからだ。つまり、ノーマルよりも硬いスプリングがなければ車高のダウンは達成できない。
「自動車工学の常識として、最大荷重が5G増加した場合を想定したスプリングレートを算出します。非常時にはそれくらいの入力があるからです1輪荷重5Gとなると、バネ上荷重250㎏の場合は1250kgにもなります。もちろんこれは非常事態ですから、4.5Gはバンプストッパーが、残りの0.5Gがスプリングの受け持ちというイメージになります」
たとえば1輪荷重が306㎏で90㎜のバンプストロークがあり、そのうちバンプストッパーまでの距離が60㎜とした場合は、次のように算出。
「306㎏×0.5G=153㎏×9.8m/S=1450N。それを60㎜のストロークで割ると、1450÷60=24.2Nm。これが最低限必要なスプリングレートとなります」
貴島スペックサスペンションでは、よりスポーツ性を高めるために、最低限必要なスプリングレートのおよそ1割増しとしている。この程度が基本的なキャラクターを変化させず、スポーツ性と乗り心地を両立する落とし所のようだ。
「ダンパーについても理論にもとづいています。臨界減衰力というものがあります。バネ上の質量とスプリングレートが決まれば、ダンパーのピストンスピードが1m/secの時、その車の臨界減衰力が理論的に決まることがわかっています。臨界減衰力=2√㎞。kはスプリングレートの総和、mはバネ上質量となっています。
これは振動をするかしないかを決める臨界値と考えてください100%は入力を即座に消すもの。ドンと一瞬で入力を受け止めるために乗り心地は硬すぎる感じですね。
0%は全く減衰せずスプリングがずっと揺れ続ける状況です。適度に減衰するのは40%くらい。30%だとアタリはいいがフワフワしていて収まらない。そのさじ加減が味づくりになるんですよ。
今回ポイントは減衰力値の総和は変えず、伸び側はハードに、縮み側はソフトに比率を変えたことです。総和を変えないのは伸び縮みの振幅エネルギー吸収を維持するためなのです」
なにやら難しい話のオンパレードだが、いずれも言えることはベースとなる部分は理論で導かれるということ。これをベースにしてはじめて味づくりに入ることができるのだ。
「ダンパーはピストンのオリフィスを粘性のあるオイルが通過する際に発生する抵抗によって、スプリングの運動エネルギーを熱エネルギーに変換し、その熱を放出する仕組みになっています。だからこそデータを取るには温度管理が必要なんですよ」
理論からデータ収集まであらゆる領域に貴島さんの考えを盛り込んだ貴島スペックは、もはやチューニングパーツの域を脱している。ある意味、自動車メーカー以上のノウハウが凝縮されているのだ。
今回発売されたRX-8とロードスター以降も、その理論に基づいたストリートスポーツサス・キット第2弾(2月以降順次)として、デミオやアクセラ、アテンザ、CX-5などが予定されている。

kijima 貴島孝雄さん
マツダでサスペンションの権威としてスポーツカーの開発に携わり、ロードスターやRX-7の開発主査を歴任。マツダ退職後は、山口東京理科大学の教授として、次代技術者の育成にあたっている。2011年よりオートエクゼのスーパーバイザーに就任している
  hashimoto 橋本洋平
テスト&レポート
新車からチューニングカーのインプレまで、幅広く乗りこなす気鋭の自動車ライター。仲間とロードスターを共同所有しており、その乗り味に魅了されている一人である
XaCAR 13年2月号より